いざ公務員試験へ -挫折と再スタート-
ヤマトは、大学時代まで人と話すことに苦手意識を感じていましたが、新卒で挑戦した営業職でコミュニケーションスキルを身に付けます。そんなある日、営業本部長が訪れ、「夢は何か」と尋ねます。この質問に答えられなかったヤマトは、自身のキャリアと将来について深く考え始めます。
公務員への転機
営業としても自信がついてきた2年目のある日、全国の営業所を統括する営業本部長が巡回に来ました。
そこで、唐突で直球の質問を投げかけられました。
「山戸君の夢って何なん?」聞き慣れた関西弁に温かみを感じながらも、言葉が詰まりました。
自分の夢を描けていないという事実に、恥ずかしさと気後れを感じたんです。
そこで、得意の冗談でこう言ってその場を逃れました。
「お金持ちになりたいです!」
本部長は一瞬、豆鉄砲をくらった鳩のように固まった直後、大声で笑い始めました。
「わはははは!自分おもろいな。それもいいな。ほな、いくら稼ぎたいんや?」
再び、答えに窮しました。
そのことがきっかけで、自身のキャリアについて、初めて深く考え始めました。
「お金を稼げるようになったとして、それで自分は満足なのか?」
「本当はどんな仕事をしたいんだろうか?」
自問自答を続ける日々の中、その答えにたどり着くヒントは、図らずとも当時のお客さんからもたらされたのです。
きっかけは内気なお客さん
そのお客さんは内気で、口数が少ない方でした。ただ、求めていた商品は珍しいものでもなかったので、提案自体は順調に進みました。
しかし、いよいよ契約という段階にきて、お客さんが急によそよそしくなりました。
すごく商品は気に入っているんだけど、盗難が心配だというのです。
当時、バイクの盗難はたしかにはやっていましたし、提案した商品が気に入った分、そういった不安がよぎるのも無理からぬことです。
そこで、このお客様ために出来ることを考えました。
ほどなくお客様の住所から近いセキュリティも万全のコンテナスペースを見つけ、さらに万一のために備えて盗難保険も提案しました。電話での会話でしたが、受話器越しによろこばれていることが伝わって来ました。
「あんなに内気な人でもこれだけよろこんでくれるんだ。」
そのとき、合点がいきました。
なぜ、自分が冗談を言うのか、ということです。
それは、単に相手を笑わせることが好きなのではありませんでした。どんよりした空気や張り詰めた緊張を和らげるために無意識にやっていたことに気付きました。
だから、自分は人を楽しませる今の仕事ではなく、何かに困っていたり、落ち込んだ状態の人たちに明るい気持ちになってもらうような仕事が向いているのではないか。
そこから、転職を本気で考えはじめ、至った結論が「公務員」でした。
当時、公務員を目指したきっかけは他にもありました。
一つ目は、当時お付き合いをさせていただいていた女性(今の妻)が、小学校の教員であったこと。話を聞くととても楽しそうに仕事をしている様子を知って、公務員という仕事への固定概念が良い意味で崩れていきました。
もう一つは、時の大阪府知事の橋下徹さんです。行政の在り方1つで、地域の在り方が変わるという事実を目の当たりにし、自分もお困りの方の力になることをとおして、社会の課題を解決する。そして、地域を、日本をより良くしていくんだ。
そう心に決めました。
そして、社会人2年目の立春。わたしは公務員試験の予備校になけなしのボーナス27万円を握りしめて入校しました。
おまけに面接試験も見越して、スーツを2着も新調するほどに意気込んでいました。
面接大失敗
公務員試験と言えば、筆記試験です。
ぶっちゃけ、これまで高校受験や大学受験、就活にしても、ぜんぶ、確実に通るだろうという安パイを選択してきました。
だけど、公務員試験は未知数。可能な限り合格率を高め、一発で突破するために、予備校を活用しようと思ったのは自然の流れでした。
そこで、筆記試験に関しては、4か月で400時間超の勉強時間を積み上げ、十分に合格レベルに達していました。
筆記試験さえ切り抜ければ、面接試験の倍率は1回で2倍、二次と最終を掛け合わせても4倍程度。営業で身に付けたコミュニケーションスキルを使えば、合格は容易だ、そうタカをくくっていました。
そこで、初めて受けた人口7万人程度の自治体の面接。
合否通知を待つまでもなく、開始3分で不合格を確信しました。
「なんで公務員なの?」
「なんで市役所が良いの?」
「なんで地元でない当市なの?」
「部活の成績は?」
次々に投げかけられる質問に、戸惑いの連続でした。
一体、面接官は何を知りたいんだろうか?
自分は何を話したらいいのか?
見当もつかず、しどろもどろ。
ついには追い詰められ、「これは面接で言っちゃいけないだろう」と頭でわかっていることでも、口をついて出てくる始末。
面接官が早々に評価シートに大きくバツ印をつける音が会議室に響き渡りました。
ぶっちゃけると、元気よく、笑顔でハキハキ話していれば、受かると思っていました。
気温が30度を超える初夏、紺碧の空の下で、冷や汗を垂らしながら、自分の甘さを思い知った瞬間です。
反省をもとに最終面接へ
じつは、最初に受けた自治体は場慣れや肩慣らしのつもりでした。
本命は秋に試験が行われる中核市。筆記試験、集団面接と順調にクリアし、迎えた最終試験の個別面接。
きちんと志望動機や公務員になりたい理由も準備し、本番に臨みました。
最終面接は順調に推移し、このままいけば受かるだろうと思っていたのも束の間、最後から3つ目くらいの質問で「最近気になったニュースは?」と聞かれました。
想定していた質問ではありました。
でも、「この質問の意味ある?」と心の中で浅く見積もってしまっていたんです。そのため、回答もとりあえず作った程度。
ここが最大の敗因です。
題材は当時盛んにおこなわれていた「憲法改正論」でした。
事前にネットの情報で調べていた通り、ニュースの説明とそれに対する感想を付け加えて回答したところ、面接官からツッコミを受けたのです。
「それ、自治体職員として何かできるかな?憲法は国が決めるんだよね?」
「まずい!」
うすうす自分が用意した回答が浅いことに気付きながら、煮詰めることを怠った点を見事に深掘りされ、緊張が走りました。
そして、「何か答えなきゃ!」という焦りから、自分は思わず面接官の意見に対して反論口調で返してしまったのです。
その瞬間、それまで穏やかだったその場の雰囲気が一変し、ひんやりとした冷たい空気がスッと流れ込みました。
その後にどんな質問をされたか、自分が何を話したか、正直覚えていません。記憶しているのは、「挽回できない状態になった」ということです。
一発勝負の面接、本当の怖さを思い知った瞬間でした。
悔恨と反省
さて、これをいわゆる「一発NG回答」と分類するには思慮が足りません。
もし、面接官の指摘を受け止め、その場で深く考え、自身の意見を見直すことができれば、結果は変わったでしょう。
いや、もっと言えば、「こんな質問何のために?」という疑問を事前に潰し、きちんと自身の考えを整理できていればそもそもツッコミなど受けなかったはずです。
突き詰めれば、面接官の意図に対する考えが浅く、その結果、準備に粗があったということです。そのほころびが露呈した。
その結果が、最終面接不合格。
あまりに稚拙な準備。
痛恨の極み。
予備校に払った27万と、貴重な余暇時間を半年以上にわたって延べ540時間以上も削り続けた結果が、最終面接落ち。
たった一つの質問で、自分は落ちた。
ほんの少しの気の緩みがもたらした惨敗、敗走、失意。
悔やんでも悔やみきれませんでした。
「あの時、こうやって回答していれば…」
「もっと準備を煮詰めておけば…」
さりとて、覆水盆に返らず。無残な結果を前にして、私は過去を悔やむことしかできない現実に、人生初の挫折を味わっていました。
再起動
そんなどん底の淵にいた僕を救ってくれたのが今の妻です。
「もう一回受験してみたら?教員採用試験だって毎年落ちる人がたくさんいるんだよ。もう一回やってみればいいんじゃない?」
その言葉を聞いた瞬間に、脱力し切っていた身体ににわかに力が湧き起こりました。
人間、過去には戻れない。
出た結果は受け止めるしかない。
でも、諦めきれない。
ならば、もう一度。
「受かるか分からない。でも、やり切る。どんな結果であっても、後悔しない準備をするんだ。」
「そして、受かったら、言おう。結婚しよう、と。」
恥ずかしい話ですが、本当の話です。 そこから、私の本当の面接対策が始まりました。
対策のいらない面接対策 -面接の本質-
最終面接の不合格という結果を受けて、私は面接の本質に気付き始めていました。
その本質とは、「結局、面接って普段の延長線上なのではないか?」ということです。
理解を深める
2年目の受験で私が取り掛かったのは、模擬面接でも想定問答集作りでも、自己分析でもありませんでした。
何よりもまず初めに行ったのは、「志望先選び」でした。
埼玉県には全部で64の市町村があり、全国でも2番目の数を誇ります。
ただし、生活の拠点を考えると現実的に通勤可能な市町村数は約20か所。
この中から、志望先を絞り込むことから始めました。
その方法としては、各自治体のHPを見たり、実際に市役所や町並みなどを見て回り、気になったことや興味を持ったことをどんどんノートにメモして、それを持ち帰ってはインターネットを使って、より詳しく調べていきました。そうするうちに、行政課題の本質をつかみ、自治体が求める職員像や公務員として働くイメージが湧いてきました。
事後的に振り返ると、これがいわゆる自治体研究の代わりになっていたのです。
ただ、通常の自治体研究とは大きく異なる点が2つありました。
それは「調べるために調べない」、「資料だけに頼らない」ということです。
そういったスタンスでおこなったリサーチのおかげで、「志望動機」はもちろんのこと、「転職理由」や「公務員になりたい理由」、「県庁ではなく市役所を志望する理由」といった質問への回答も難なく整理されていきました。
また、私が初めて指導した37歳の受講者も地元ではない自治体を志望していたため、この方法をお勧めしたところ、「志望動機って何ですか?」という状態から、1週間で合格レベルの志望動機をつくれるようになったのです。
これを体系的に整理したのが今のエンノシタでの「まち研」というワークになります。
自分を高める
こうした志望先選びと並行して、自分を高めるために2つの取り組みを行いました。
1つは、実績をつくること。
当時、営業としての実力は付いてきていたものの、面接で話せるような成果はありませんでした。そこで、当時勤めていた会社の制度として「店長代行資格」という社内資格に目を付けました。
20項目の基準をクリアすることで、店長代理として店舗運営に携わることができるようになります。その時点で、12項目を取得していたので、残りの8項目を面接までにクリアし、目標を達成しました。そして、その過程を「職務経歴書」としてまとめ、面接カードとは別に、提出したのです。
最終面接ではこの職務経歴書を見た面接官からも質問をいただくことができ、効果的な自己アピールにつながりました。
また別の段でも詳しく話しますが、じつは私は市役所を3年で退職し、その後4回の転職を経験し、着実にキャリアアップを重ねてきました。
その転職を成功に導いたのもまた、職務経歴書だったのです。
つまり、事前に提出する書類が威力を発揮するのは、民間でも公務員でも同じだということです。
そこで、そのノウハウを使って、受講者の面接カードをブラッシュアップしたところ、志望先の人事担当者から「私も○○さんのこのお話しを聞いてみたいです。」とか、面接官からは「いろんな経験をされているんですね」といった言葉が思わず出るほどになりました。
たった、紙ペラ1枚で、です。
こうしたリアクションが出た面接の結果がどのようになるかは想像に難しくないでしょう。
二つ目の取り組みとしては、弱点の克服です。
幸いなことに私は営業経験をとおして、ある程度、話すスキルは身についていました。そして、想定問答も作って臨んだ試験では、最終面接までたどり着きました。
しかし、結果はご存知の通り不合格。
なぜか?
それは私の短所に起因します。
その短所とは「謙虚さ」の欠如です。
面接という特殊な環境下では、普段の力が出せないばかりか、その裏返しとして短所が顔をのぞかせることもあります。普段の力を出すための取り組みももちろん大切ですが、確実な合格のためには短所への対応も同時に行っておきたいところ。そこで、私はふだんの仕事の中で「謙虚さとは何か?」と考え、自分なりに行動に移していきました。
しかし、人の性格や特徴は、良い面もそうでない面も短期間では変わりません。
それでも、短所への取り組みは確実に、自分自身に変化をもたらしていました。
どういうことか?
私は「謙虚な人間」になったのではなく「謙虚になるスキル」を身に付けたのです。
持ち前のポジティブさと根拠のない自信は長所でもあり、行き過ぎると謙虚さを失う短所になります。そこで、その出幅を調整できるようにしたのです。
「ここまでは大丈夫。」
「ここからは相手に嫌がられる」
そうした距離感を仕事の中で掴んでいきました。
もし、今あなたに、口下手だとか、考えの整理に時間がかかる、といった自覚している短所があるのなら、普段の仕事の中でそれを補うトレーニングができます。なんせ、黙っていても一日のうち8時間は働いているわけですから。
その時間を有効活用しない手はありません。
なによりも、そこで身に付けたスキルは公務員になっても必ず役立ちます。なぜなら、仕事という実践で身に付けたスキルだから、文字通り一生モノになるわけです。 このように、普段の仕事の中で自分の強みと短所に意識的になることで、確実に成長することができます。
芯を固める
こうした取り組みを進めながら、私はあることに気付いていました。
「結局、面接って普段の延長線上なんちゃう?」
しかし、普段の延長線上にありながら、それだけでは収まらないものがあります。
それが、エンノシタでコアアンサーと呼ぶ、重要な質問に対する回答です。
面接では様々な質問が想定されますが、その中でも異質な質問が5つあります。
面接用語と言っても差し支えないでしょう。
じつはこれらの質問は、受験者が最も回答に悩むものでもあります。
なぜでしょうか?
理由は簡単で、普段の仕事や会話で話すことのない「自分の本質」を盛り込まなければならないからです。そうでなければ、面接官は納得してくれません。
面接官はあなたの本心を聞きたいと思っているからです。
ちなみにここで言う本心とは、下心とか、本音とか、隠すべきこと、恥ずべきことを言っているのではありません。
自分の本質とは一言で言えば「価値観」です。
価値観とは、言い換えると「価値の主観」であり、あなたが「大切にしたいこと」です。
例えば、子どもの頃は甘いお菓子が大好きだったと思います。
そうしたお菓子の誘惑をえさに、両親の言うことに従った経験はないでしょうか?
あるいは、両親や先生から褒められることがうれしくて、その気持ちをもう一度味わいたくて、テスト勉強に励んだこともあるかもしれません。
つまり、人は何かに価値を感じ、そのためにモチベート(動機付け)されています。
しかし、私たちは普段の仕事や組織に対して従順であろうとするあまり、この自分の価値観(大切にしたいこと)に対してどんどん無自覚になっていきます。
ただし、無自覚になっているだけで、失われたわけではありません。
人間、何か大きな決断をするときにはその価値観が必ずと言っていいほど、その選択や判断に影響しています。
例えば、あなたが進学する大学を選んだときや就活、過去の転職、結婚、住宅購入など、人生の転換期には必ずこの価値観が影響しています。
あなたが今まさに転職を考え、数ある職業や業界の中でも「公務員」という仕事を選んだことにも、その価値観が影響しているのです。
じつは、この自分の意思が5つの質問に色濃く反映され、自分の価値観の変遷や一貫性を物語るのです。
反対に、この回答をきちんと練り上げていないと、それぞれの回答がちぐはぐになってしまい、面接官からすると「一貫性なし」と烙印を押されることになってしまいます。
私の指導経験上、この自分の価値観が公務員という仕事に関連していることを明確に示すことができていれば20代前半くらいまでの方なら、自力で合格できます。
それほどに価値観の威力は大きいのです。
これが世間一般で言うところの「意欲や熱意」の正体です。
さて、ここで引っかかった方もいるでしょう。
そう「20代前半までならば」という点です。
何が言いたいかと言うと、年齢が上がるにしたがって、面接の準備の内容とその重みづけが変わってくるということです。 この点について、次回お話ししましょう。
コメント